スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
頬が熱い。
識嶋さんの唇も熱い。
首元を掠める息も、布越しに感じる彼の体温も。
胸の内の想いも。
全ての熱に、頭がおかしくなりそうだと瞼を強く閉じた直後──
彼の唇が離れ、逃がさないとばかりに腹部にまわされている腕から力が抜けたのがわかった。
すっかり動かなくなった識嶋さんに、もしやと耳を澄ませば聞こえてくる穏やかな寝息。
予期せぬ展開から解放された私は、息を吐いて体中の力を抜いた。
心臓はまだ忙しなく打っているけれど、ようやく頭の中がクリアになっていく。
けれど、心の中はぐちゃぐちゃだ。
識嶋さんの言葉と行為は本物だったのか。
知らんぷりできそうにないこの想いはどうすればいいのか。
どうしたらいいのかわからず、けれど、自覚した想いのせいで彼の腕は弱まっているにもかかわらず逃げたくなくて。
──少しだけ、と。
目を閉じて彼から与えられる温もりに身を委ねる。
今だけ、彼が目覚める前には戻るから。
お酒の力でなかったことにされる前に、今、少しだけ。
そして、彼の寝息を聞きながら唇を噛みしめる。
こんな始まり方、卑怯だ。