スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
「す、すみません。私、うっかりここで寝てしまったみたいで」
あれだけ悩んで識嶋さんの腕の中で横になっていたくせに、どうして朝まで爆睡できたのか。
もしかして、自分で思うよりもずっと神経が図太いのだろうか。
何にせよ、識嶋さんのベッドで寝てしまったのは事実。
ベッドに正座をし、頭を下げた。
すると識嶋さんは。
「いや、かまわない。むしろ俺の方が……悪い」
歯切れの悪い返事をし、引き続きわしゃわしゃと髪をタオルで拭いた。
その様子に、違和感。
もしかして、もしかすると。
「記憶、あるんですか?」
恐る恐る尋ねると、彼は一瞬髪を乾かす手を止めて。
「……ある程度は」
戸惑いを乗せた弱い声で答えた。
「そ、そうですか……」
そして訪れる気まずい空気。
識嶋さんの背中さえも見れずにいた私の胸中はとても複雑だ。
今後のやり辛さを考えたら忘れていてくれたらと頭では考えるのに、心は忘れてほしくないと願っていて。
自分でもどうしたいのかわからなかった。
ただ、ここにいても答えが明確になるわけじゃないだろうと考えた私は、気持ちを切り替える為にベッドから降りて立ち上がる。
「何か朝食でも作りますね」
努めて明るく話しかけ、私は識嶋さんの返事も聞かないままに朝日の差し込む明るいリビングに移動した。