スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-


──用意した朝食はごく簡単なものだった。

前日にお酒を飲んでいるからと、胃に負担のかからないものと考え、メニューはだし巻き玉子焼きとおかゆに梅干し、しじみのお味噌汁に。

それら一人前を識嶋さんは意外にもしっかりと食べ、部屋で仕事をするからと自室へと戻って行った。

昨夜の話には一切触れずに。

識嶋さんの気持ちだとか、私の気持ちだとか、全てを置き去りにして。

いや、彼は『悪い』と言っていた。

もしかしたらそれが答えなのかもしれない。

その一言に、忘れてくれというメッセージが込められているのでは。

あれは、酔っ払いの戯言だと。

……だめだな。

いつもそう。

自分の気持ちに正直になると、いい方に考えるのが難しくなる。

悪い方を予想してしまうのは、傷つくことを恐れるが故であり、恋の病と言われる難病を患ったものに現れがちな症状なのか。

ならば、病は気から。

私は鬱々としてしまう前にと、部屋に戻ってスマホを手にした。

仕事も恋も、気分転換によって見え方も変わってくることがある。

いい方向に変わることを期待して、私は連絡帳からある人の名前を表示させたのだった。



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