スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
お詫びというフレーズで思い当たるのはあの夜のこと。
気にしていてくれたのが嬉しくて。
だけど、これで片づけられてしまうのかと思うと少し悲しい。
詫びが欲しいんじゃないと、今ここで識嶋さんを問い詰めるわけにもいかず、その勇気も出ず、私は笑顔を張り付ける。
「良かったら一緒に食べましょう」
過ぎたことは変えられない。
ならば、二人の関係を悪くしないように、いつも通りに振る舞うのが今は一番いい。
私の提案にエントランスへ入ろうとしていた彼の足が止まり、振り返る。
そして、私を見つめ、その唇が何かを告げようと開かれた刹那。
「玲司さん」
聞き覚えのある耳障りの良い声が識嶋さんの名を呼んで。
彼の視線が私から、少し左にズレる。
「先日はありがとうございました」
私の後方から聞こえるソプラノに、鼓動が早まり始めた。
だって、この声は。
「どうしてここが?」
「こんな時間にごめんなさい。お住まいはあなたのお母様から聞きました」
この前、もうすぐ結婚するんだと教えてくれた子の声にとても似ているから。