スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
どこからそんな話がまわったのかと眉をひそめる私に、識嶋さんは西園寺のご令嬢だろうと予想を口にした。
縁談の話を知るのはまだごく一部の人間のみで、当事者と身内以外では私しかいない。
そして、識嶋さんの恋人が”高梨”だと知っているのは彼女のみ。
だから、ほぼ彼女が意図的に社内に噂が流れるように仕向けた、と。
昨夜、自宅のリビングで識嶋さんの口から語られたそれを、私はなんともいえない気持ちで聞いていた。
優花ちゃんはそんなことをするような女性には見えない。
でも、悩んでいるか怒っているんだとは感じている。
理由は、私のメッセージに対して返信がないからだ。
けれど……だからといってわざと噂を流すようなことまでするだろうか。
そもそも、顔合わせをしただけで正式に婚約者にはなっていないのだ。
それは彼女だってわかって──いる、はずだけど。
優花ちゃんは、もうすぐ結婚するんだと言っていた。
ならば、彼女は勘違いをしているのか。
……答えは否、だ。
だって、識嶋さんは彼女に言っていた。
私を、”以前話した恋人”だと紹介したのだ。
それとも、優花ちゃんにとって恋人なんて存在は眼中にはなく、家の為に別れて自分と結婚するのは当たり前くらいに考えているんだろうか。
そんな子には……見えないけれど、よく考えたら私はまだ優花ちゃんと友達になって間もない。
彼女の全てを知っているわけではないのだ。
だけど疑うのは嫌で、私はあまり深く考えるのをやめた。