スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
今までは誰にも見られていなかったけど、噂が流れている今下手に車を利用させてもらうのは良くない気がしたのだ。
何せ私にはストーカーの問題がある。
彼の耳に噂が伝わっているなら、識嶋さんのリムジンもマークしているかもしれない。
識嶋さんにはそのことを会社を出る前にメールをして伝えた。
危機感がないだとか文句を言われるとは思うけど、今後どうするかは識嶋さんが帰宅したら相談させてもらおう。
そんなことを考えながら駅に向かっていたら、鞄の中でスマホが単調な着信音を奏でた。
誰からだろうと鳴らしていたヒール音を止め、少しだけ道路の脇に寄って鞄に手を入れると、ディスプレイに表示されている名前は識嶋さん。
さっそくお叱りを受けるのだろうと心の準備をしつつスマホを耳にあてる。
「はい、高梨で──」
『お前は本物のバカだな』
機械越しのきつい言葉にやっぱりと思いつつ、私はまた足を動かした。
「すみません、バカです。でも、バカなりに考えてとりあえず今日はそうしようかと」
『ダメだ。戻って車に乗れ。何かあったらどうする』
正直、こうして識嶋さんが心配してくれるのは凄く嬉しい。
想いを寄せている人が、自分を大切にしてくれている。
それは、とても幸せなことだ。
でも、それと同時に申し訳ない気持ちにもなる。