スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-


「あなただったの? 内山君……」


後輩の名を口にすれば、彼は唇ににたりと三日月を浮かべた。

私の手首を掴む彼の力は強く、簡単には逃れられそうにもない。

しかも、よく見れば反対の手には鈍く光る携帯用のステンレスナイフが握られていた。


「どうして……」


こんなことを、するのか。

それは声にならなかったけれど、内山君は感じ取ったようで、うっすらと笑みを浮かべながら話す。


「どうして? だって、いつも笑顔で挨拶してくれるじゃないですか。好きだよって気持ち入りの挨拶」


けれど、彼から語られた答えに、私は眉根を寄せることしかできなかった。

確かに挨拶はしている。

笑顔だって意識してやっていた。

だけど、そこに特別な感情なんて込めたことは一度もない。


「僕が入社してすぐ、仕事で失敗した僕を慰めてくれた時、わかったんです。ああ、この人は僕をちゃんと見てくれてるって。僕の味方だって。僕を、想ってくれてるって」


段々とうっとりとした声色になり、私を見つめる瞳がどこか酔ったように細められる。



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