スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
「大丈夫か?」
てっきり怒られると思っていたけれど、そんな様子はなく。
識嶋さんは少し眉尻を下げて私を見つめた。
「擦り傷程度です。それより、ありがとうございました」
識嶋さんが来てくれなかったら今頃どうなっていたか。
心から感謝し頭を下げると、識嶋さんは「携帯が落ちていてわかった」と教えてくれた。
どうやら彼は襲われそうになっている私を見つけ、反対側から回り込んで内山君を蹴り飛ばしたらしい。
「見つけてもらえて助かりました」
ようやく震えがおさまってくる中話すと、識嶋さんは私から少し視線を外して。
「お前に何かあると、困るんだよ」
そう言って、照れ臭そうに手を差し出した。
「帰るぞ」
本当なら、この手はとってはいけない。
ここは会社から近いし、多分、これから識嶋さんと共に車に乗るだろうから。
誰かに見られてはまずい。
わかってはいる、けど。
今は、今だけは、彼の手に触れたくて。
優しい温もりが欲しくて。
心の弱い私は。
「……はい」
そっと、識嶋さんの手に自分の手を重ねた。