スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-


食事の最中、実はこれはストーカー解決のお礼と居候させてもらったお礼でもあると告げ、感謝の言葉を口にする。

けれど識嶋さんは、別に礼はいらないと言って、鯛のソテーにナイフを入れた。

そして、続ける。


「それに、ここにはまだいてもらわないとならない。だからそっちの礼は必要ない」


まだ、いなければならない。

ここに来た頃の私なら、早く帰りたいと愚痴を零しただろうその言葉。

けれど、今の私にとっては、思わず頬が緩んでしまうほどの嬉しい言葉だ。

うつむいて、にやけそうな顔を隠しながら問いかける。


「それは、婚約回避の件でですか?」


多分そうだとはわかっているけれど、一応確認。

答えは「そうだ」と言うのがわかっていながらの質問、だったのだけど。


「……まあ、それもある」


別の意図もあるような素振りで答えた識嶋さん。

それは一体何なのか。

もしかして何か追加でもされるのだろうかと、再び問いかけようと顔を上げれば、識嶋さんは慌てて私から視線を外した。



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