スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
「う、美味いな、この鯛のソテー」
まるで話題を変えるようにそう口にして、彼はルビーのように赤いワインを一気に飲み干す。
そして、すぐにお代わりの分を注いで、またワインに口をつけた。
私は決して勘がいい方ではないけれど、これまでの識嶋さんの言動を思い返してみれば、もしかしたらと思わないわけではない。
むしろ、そうであればすごく嬉しい。
でも、勘違いの可能性はゼロじゃない。
違った場合は自惚れにもほどがあるわけだけど……正解だったとしても、切ない結末を迎えるのだ。
彼は近い将来、会社の為に意味のある結婚をする。
私は意味のある存在ではない。
想いが叶っても、いつかは離れなければいけないのなら。
それなら、私が取るべき道はひとつだ。
識嶋さんに気付かれないように息を深く吸い込んでから笑顔を作る。
「実は、ケーキも焼いたんですけど失敗しちゃって」
この空気を壊して、いつもの私たちに戻すのだ。
私の中にある彼を想う気持ちは、告げてはいけない。
鍵をかけて、幾重にもかけて、間違っても識嶋さんに見せないように。
ただ静かに、想いを抱く。
辛くても、悲しくても、想いがいつか昇華されるまで。