スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
「す、すみません! そんな話とは知らなくて! あの、お世話になる話はなかったことにしていただいて──」
「理由は聞いている」
焦って居候の件をキャンセルしようとした私の言葉を、鋭い声色で断ち切った彼。
「ストーカーに困っているんだろ?」
「はい……」
素直に頷くと、彼は中途半端に開いていた玄関扉に寄りかかり腕を組んで。
「本来なら絶対に断る話だが、あの人の頼みだ。特別に、引越しが可能になるまでは置いてやる。ただし、俺が無理だと思うようなことがあればすぐに追い出す。いいな」
淡々と、けれど威圧するように言い放った。
綺麗な顔からは想像もつかないきつい態度に、つい頬が引きつる。
なんだかもう帰りたい気分になってきたけど、有無を言わさないような感じで「とにかく入れ」と促され、断ることも出来ないまま、私は広い玄関ホールへと足を踏み入れた。
色味の抑えられた高級感溢れる玄関ホールは落ち着いた雰囲気で、彼には似合っているなと思った直後、ハタと気付く。
まだ彼の名を聞いていないのだ。
「すみません。私まだお名前を伺ってなくて」
もしかしたら社長から聞かされてるから紹介は必要ないと考えてるのかもしれない。
そう思って30畳近くはありそうな広いリビングダイニングに入ったところで言ったら、彼は振り向いて二重の瞳を僅か丸くする。
「知らないで来たのか?」
「も、申し訳ないです……」