スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-


エスコートされ、白を基調とした気品のある屋敷の中へと入っていく。

全室であるサロン内には豪華な王朝様式の家具が並んでいて、ゲストがそれぞれに談笑を交わしていた。

その中には若い女性も数人いて、識嶋さんに気付くと目を奪われたように見つめる。

けれど、私がいるからか話しかけてきたりはしなかった。

……いや、私がいなくても識嶋さんに話しかけたら数秒で彼女たちは散って遠くで見つめるのみとなるだろう。

会社での識嶋さんを思い出し、そんな風に考えたら少しだけ気持ちが緩む。

このまま場の雰囲気に吞まれないようにと、私は自分の腰に軽く手を添えて誘導しながら歩く彼に話しかけた。


「識嶋さんて、卒業式でボタンほしくても近寄りにくいタイプですよね」


彼は突然なんだと零しつつも、私の相手をしてくれる。


「全部持っていかれたが」

「ボタン全部ですか。勇気出した子がたくさん──」

「校章とブレザーと、あと鞄もか」

「ブレザーと鞄も!?」


淡々と思い出しながら語る識嶋さんに、驚いて勢いよく見上げると彼は話を続けた。


「生徒会の女生徒からボタンをくれと言われて、了承したら群がられたんだ」


ああ……きっと女の子たちは周りで識嶋さんの様子を伺ってたんだろう。

そしてチャンスが到来したものだから逃すものかと一斉に飛びついた。

けれどボタンの数には限りがある。

その結果、勢いでボタン以外のものも持っていかれた、と。



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