スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-


……そうだ、仕事だ。

仕事だと思えば気も楽になる。

私は、これからクライアントのボスと会うのだ。

無理矢理暗示をかけるように大きく息を吸って吐き出す。

そんな私の様子に気付いた識嶋さんは小さく笑うとガーデンスペースへ向かう。

そして彼は、背中の大きく開いた黒いロングドレスを身にまとう女性に声をかけた。


「母さん」


呼ばれた女性──識嶋さんのお母様がゆっくりと振り返る。

佇まいは美しく、識嶋さんに似た切れ長の瞳はメイクによってどこか妖艶な雰囲気を醸し出していて。

まるで大女優のような貫禄に私がたじろいだのと同時。


「おー、美織ちゃん」


人懐こい笑みを浮かべた社長が識嶋さんのお母様の隣に立った。


「玲司と一緒ってことはももしかするもしかするのか?」


驚くというより期待に満ちた顔で私と識嶋さんを交互に見る。

その横でしばらく私の様子を伺っていた識嶋さんのお母様が、赤い口紅をひいた唇を開いた。



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