スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
本当、よく考えたら私ってば社長から細かいことは何も聞かされてなかった。
というか、聞いても「詳しくは行ってから」としか答えてもらえなかったし。
もっとしっかり聞くべきだったと反省していると、彼はこっちだと言いリビングの向こうに伸びる廊下へと進んでいく。
慌てて追いかければ、一番奥、突き当たりの部屋の扉を開けた彼。
「この部屋を貸す。ベッドや家具は好きに使ってかまわない」
「は、はい。ありがとうございます」
「俺はこれから出掛ける。帰りは遅くなるから、適当に過ごしてくれ。家のカードキーはダイニングテーブルに置いておく。それじゃあな」
半ば強引に会話を終わらせた彼は、リビングへと踵を返す。
すれ違いざま、シトラス系の爽やかな香りが鼻孔をくすぐって。
振り返る雰囲気が微塵もない彼の背中を見送ってから部屋に入った。
手にした鞄を部屋の奥の方に設置された大きなベッド脇に置き、改めて部屋を見渡す。
壁には東京の景色を見渡せる仕切りのない大きな窓。
部屋の中央には丸いガラスのコーヒーテーブルと、一人がけ用の赤茶色した革ソファーが二つ。
そして、何故かここに入ってきた扉以外にも扉が二つある。
確かめてみれば、一つは三畳程のウォークインクローゼットと、もう一つは。
「バスルーム! ゲストルーム用ってこと!?」
ほとんどの一般人には馴染みがないだろう、お客様用のバスルームがあった。