スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
彼の本心を聞きたくて。
でも、聞いたところで進んでいいわけでもなく。
例え進んだとしても、やがて訪れる別れに傷つくのも怖くて。
「本当に大丈夫ですから。先に帰って待ってますね」
「……わかった。気をつけろよ」
嬉しいのに、呼吸がし辛いくらいに苦しい。
そして、恋人のフリをするだけならそこまでする必要はないと跳ね返せない私の狡さに、自分で辟易する。
廊下まで追ってきてくれた彼にお疲れ様でしたと挨拶をし、エレベーターに乗り込んで。
降下していく数字を見つめながら唇をきつく横に結ぶ。
どうしたらいいのか、どうしたいのか。
もう、自分でもよくわからなくなってる。
だけど、識嶋さんへの想いだけは日に日に膨らんでいくのは嫌でもわかって。
彼が普通のサラリーマンなら良かったなんて、考えても仕方のないことが頭をよぎる。
そうであったなら、手を繋いで、抱き締めあって、唇を重ねて共に眠りにつけるのに。
名前を呼びあい、当たり前のように一緒にいられたらどんなに幸せか。
会社を出て、叶うことのないもしもの二人を想像しながら、まだ識嶋さんの残るシキシマのオフィスビルを見上げた時だった。