スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
人影が、振り返った私から隠れるように路地に入ったのが見えて。
「……そんな、わけないよいね」
長く付きまとっていた内山君の存在を思い出し、身を固くする。
彼がここにいるわけはないのだ。
まだ警察に捕まっているのだから。
けれど、今見たものがあまりにも不自然な動きをしていて。
……もしかして、釈放された?
浮かんだ可能性に、襲われた際の恐怖が蘇り身震いする。
本当に内山君なのか。
確かめたくても怖くて到底できそうにない私は、足早にその場を離れて駅へと向かう。
大丈夫。
勘違いだ。
識嶋さんが心配するから変に敏感になっているだけ。
彼が帰ってきたら文句を言わせてもらおう。
恐れを振り払うように気を強くし、私は何事もなくタワーマンションに辿り着いた。
そして、部屋に入ると張っていた気を一気に緩めてベッドに腰を下ろす。
あれから誰かの気配を感じるようなことはなかった。