スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
識嶋さんの想いに甘えないように、と。
彼の指が私の顎に触れて、上を向かされる。
交差する眼差しは、僅かに甘さを滲ませていて。
識嶋さんの整った顔が、あの煌びやかな夜のように迫ってきた刹那──
脳裏に蘇る優花ちゃんの冷めた視線。
「……ダメ、です」
言って、彼の唇が触れる前に俯いて逃れた。
「私じゃ、ダメなんです」
「何がダメなんだ」
「私は平凡な女だから、あなたの邪魔になる」
彼の胸をそっと押せば、意外にも難なく彼の腕から解放されて。
「明日、出て行きますね。自分の家に戻ります」
宣言し、一歩後退すると、戸惑い瞳を揺らす識嶋さんに頭を下げる。
「おやすみなさい」
無理矢理終わらせて、リビングを後にしようとする私を識嶋さんの「待て」という苦し気な声が止めようとした。
けれども私は足を止めず、振り返らず、ドアノブに手をかけて。
後ろから追いかける声を遮断するように扉を閉めた。
心が軋む音を聞きながら。