スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
識嶋さん、と。
口内で彼の名を呼ぶ。
無意識に立ち止まった私の視線の先にいるのは、急な用事が出来たからと私より少し早めに会社を出た識嶋さんと、ずっと音沙汰がなかった優花ちゃん。
……私が、出て行くから婚約の話を進めることにしたのだろうか、なんて考えて気持ちが沈む。
自分から突き放したくせに、好きな相手を軽薄な人みたいに考えてしまうなんて最低だ。
でも……優香ちゃん、笑ってる。
この前見た冷めた瞳が嘘のように、いつもの彼女らしい笑みを浮かべてる。
識嶋さんの方も、普段彼が纏っている固い雰囲気は見られなくて。
はたから見る分には、美男美女のお似合いのカップルだ。
ちくちくと痛み出す心を抑えつけ、息を吸う。
行こう。
2人がうまくいくなら、それでいい。
「それで、いいんだ」
自分を納得させるように呟いて。
一度、瞬きをしてから視線を外す、その間際。
識嶋さんと、目が合った気がして。