スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
「どこか痛むところは?」
「大丈夫です」
「そうか。手の方も剥がすぞ」
「はい」
そうして、識嶋さんのおかげでようやく解放された私は、彼に手を貸してもらいながら体を起こして廊下にへたり込んだ。
右の手の甲で頬に流れた涙を拭き取ると、片膝をついて私の様子を伺う識嶋さんに「ありがとうございました」と礼を言う。
彼は「間に合って良かった」と口にしながら、濡れた髪をかき上げ、雨で重くなったジャケットを脱いだ。
そういえば、今までパニックになってて気づかなかったけど、遠くから雨音が聞こえる。
どうやら雨は未だに強く叩きつけているらしく、識嶋さんがこれだけびしょ濡れなのも納得がいった。
「……優花ちゃんと、会ってたんですよね」
「ああ。高梨がいたおかげで、彼女の怪しさに気付けたんだよ」
「私……ですか?」
「外にお前がいることに気づいて、追いかけようと席を立ったんだ。その時、お前と話をしてくると彼女に伝えたら、よくわからない話を振られて執拗に引き留められて……違和感を感じた」