スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
そもそも、呼び出した理由が婚約しなくても互いの会社に利益があるようにする為に話がしたいというものだったらしい。
だから、識嶋さんは優花ちゃんに会ったのだと彼は話した。
けれど、具体的な話は進まず、それどころか私との交際は順調なのかと聞かれたらしい。
「順調だと答えた時に、お前を見つけた」
ああ、そうか。
彼の雰囲気がどことなく柔らかく感じられたのは、私の話をしていたからだったのか。
優花ちゃんに向けられたものではなかったと知り、嬉しくなってしまう。
続く話しでは、私を追おうとするのを引き留めるということは、私に何かあるのかもしれないと危惧し、店を飛び出したということだった。
「悪かった」
「──え?」
「多分、お前が感じた気配も勘違いじゃなく、さっきの男だろう。西園寺の可能性に気付けず、怖い思いをさせてすまない」
思い詰めたように眉を寄せる識嶋さんに、私は頭を振る。
「そん、な。そんな、謝らないでください。識嶋さんは何も悪くないです」
私の言葉に彼は肯定も否定もしない。
ただ、瞼を伏せて。
「……本当に、出て行くのか?」
確認した。