スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
実家に帰らずにホテル住まいを選ぶ理由は人それぞれ。
私のように、ストーカーから逃れる為に高級マンションで生活するのだって、何も知らない人からすれば、どうしてそうなったのかと疑問に思うだろう。
しかも、ほぼはじめましての人との同居生活なんて、なかなかない体験だ。
まして相手は男の人。
誤解を招きかねない状況過ぎて、誰にも話せそうにない。
なので、両親にすら今回の居候の件は正直に報告していないのだ。
社長にも親には心配をかけたくないからと口止めをお願いしてある。
それにしても、一晩明けたにも関わらずまだ彼の名前すら聞けてない。
朝、支度を済ませてリビングに出た私を迎えてくれたのは家主である彼ではなく、中年のハウスキーパーの女性だった。
品のある柔らかい笑みを浮かべた彼女は村瀬さんというらしい。
忙しそうにしていたのであまり話せなかったけど、彼はもう出掛けたとのことだった。
今日は必ず名前を聞こう。
心に決めて、私は仕事をすべく、気を取り直すようにパソコンを立ち上げた。
そして、同日昼休み──
「ああ、あいつならもういるんじゃないか?」
会社近くの定食屋さんで、頼んだ焼き魚定食を待ちながら、私は先輩の言葉に私は首を傾げた。