スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
本当、気をつけないと。
今日は午後から口説き落としたいアニメ映画監督に会いに行く予定がある。
理想とするCM制作には、どうしてもその監督の作る世界観が必要なのだ。
唇を引き結び、会議テーブルの上に重ねてあった自分用の資料を胸に抱える。
そして、今度こそ会議室を出ようとしたのだけど、またしても私の足は踏み出し損ねてしまった。
いつの間にか電話を終えていたらしく、識嶋さんが私を呼んだのだ。
「怪我は?」
どうやら先程転びそうになったのを見られていたらしい。
電話しつつも私のことを気にかけてくれていたのかと嬉しい気持ちが芽生えた。
「大丈夫です」
気恥ずかしさと共に笑みを浮かべてアピールする私の隣に識嶋さんが立つ。
すると、彼は「本当に鈍臭いな。気をつけろ」と、いつものように毒を吐いた。
い、一応、この言葉の中には彼なりの優しさが含まれているのはわかっている。
気をつけろと言ってくれてるし、何より冷たい言い方ではなかった……ような感じがした、と思いたい。
会社だから、プライベートとは分けて接しているのだと。