スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
Last Floor
エントランスの扉を背に、凛とした佇まいで立っている優花ちゃん。
彼女は、一歩こちらへと踏み出すと、可愛らしいシフォンワンピースの裾を揺らす。
「誤解を解きにきたの」
私は後ずさる事も出来ずに、緊張の面持ちで肩にかけた鞄の持ち手を強く握り締めた。
そんな私の様子に、優花ちゃんは優しく瞳を細める。
「そんなよそよそしくしないで。私はただあなたを助けたくて」
「助ける……?」
話しが見えなくて、眉間にシワを寄せれば、優花ちゃんは悲しそうに表情を歪ませた。
「私は何もしてないわ。全ては彼が自分に都合のいいように仕向けているの」
一瞬、思考が停止する。
……彼、とは、識嶋さんのことだろうか。
私と優花ちゃんの共通の友人知人は識嶋さんと相馬先輩くらいしかいない。
でも、ここ最近の流れで相馬先輩が話題になることはないだろう。
それなら、やはり彼女が言う彼とは識嶋さんを指しているはず。
けれど……彼女が何を言ってるのかわからないのだ。
いや、正確には、彼女の言葉の意味は理解できるけど、口にした内容が信じられない。
なぜなら、優花ちゃんはあの日、男を差し向けたのは自分ではなく識嶋さんだと言っているのだから。