スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-


走り出したリムジンを見送りながら、私は口を開いた。


「さよなら、優花ちゃん」


別れを告げると、肩を抱いていた識嶋さんの腕が離れ、代わりに頭に乗せられてポンポンと優しく叩かれる。

見上げれば、識嶋さんは「これで下手に手出しはしてこないだろう」と話した。

あまりにも大事になればシキシマと西園寺の関係にも響くのは彼女も理解しているはずだ、と。

私は納得し、頷いてから問いかける。


「聞いてもいいですか」

「なんだ」


それは、恋人だと言ってもらえたからこその素朴な疑問。


「なぜ、私なんですか?」


正直、識嶋さんなら、恋人だろうが婚約者だろうが選びたい放題だと思う。

もちろん、彼の性格上、無駄なことはしないのは百も承知だ。

でも……


「私は特別なところが何もないですし」


例えば、さっき優花ちゃんとの会話にもあったように会社の利益にはならない存在だ。

識嶋さんは、彼にとって価値があると言ってくれて、以前も識嶋さんの為になるなら会社の為にもなると言ってくれていた。

けれど、やはり自分の存在が彼のプラスとなるようには思えない。


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