スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-


「そろそろまた警察に相談した方がいいのかなー……」


消え入るように声にしてから、重い腰を上げる。

今日は近所の臨海公園で開催されるフリーマーケットに行く予定なのだ。

朝、目覚める前から入っていたストーカーからのメールにズンと気が重くなってしまい、一時は出かける気分ではなくなってしまったんだけど、逆に出かけないと鬱々としてしまいそうだったのでこうして予定通り外出することに。

臨海公園まではここから歩いて約10分ほど。

……よし。もうスマホは電源を切っておこう。

この川沿いは景色もいいし、ストーカーに振り回されるなんてもったいない。

私は抑鬱とした気持ちを振り払うようにスマホの電源を切ると鞄に押し込めて歩き出した。

やがて現れた桜並木が連なる道。

歩道を埋め尽くすような桜の花びらの上を歩きながら、もういっそ引っ越しでもしようかと考える。

でも、貯金もそんなに貯まってるわけではないし、かといって実家もなあ……

なんて、結局ため息を零しながらストーカーのことを考えていた時だった。


「あなた、気をつけなさい」


少し低い女性の声が、行き交う人の声を断つように私の耳に届き、思わず足を止める。

そして、声のした方へと顔ごと視線を向ければ、1メートルほど離れた場所に、咲き乱れる桜に溶け込むような薄い鶯色の小紋の着物を纏ったおばあさんが1人。



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