スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
滅多にお目にかからない高級車に、私は何事かと前進するスピードを緩めてしまう。
すると、後部座席のウィンドウが下がり、中から顔を覗かせたのは今日から東京本社に移動してきた識嶋さんだった。
「乗れ」
短く発した声と同時、運転席から黒いスーツを着た中年の男性が下りてきて、後部座席のドアを開けた。
「さあ、どうぞ」
促されて一瞬戸惑ったものの、背後にあった足音を思い出し、私は識嶋さんの乗るリムジンに乗った。
続いて運転手さんが運転席に座り、車はすぐに動き出す。
助かった……と、安堵し肩を下した私は、向かいの席に長い足を組んで座る識嶋さんを見た。
彼は背後を気にして見ていたようで、けれどすぐに体を正面に直すと窓の外を流れる街明かりに視線を投げた。
……もしかして、だけど。
異変に気付いて助けてくれた?
というか、私のこと覚えててくれてたんだと少し感動してしまう。
……いや、そうだよね。
さすがに、居候させる相手の顔は覚えるよね。
すれ違いざまに一言声を交わしただけとは違うもの。