スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
「何を笑ってる」
不服そうに胸の前で腕を組んだ識嶋さんは、ようやく私を見てくれた。
「いえ、何でもないです」
答えれば、広い車内で彼はどこか居心地が悪そうに足を組みなおし、今度はきちんと私の目を見て話す。
「ストーカーはいつからなんだ?」
「確か、去年の夏くらいからでしょうか」
思い出しながら答えると、識嶋さんはさらに「警察には行ったのか?」と質問してきた。
「届けましたけど、特に本格的に動いてくれてはいないです。なので、今は自分で対処してるんですけど、メアド変えてもまたメールくるし……」
「なら、知り合いの中にいるんだろ」
言い切った彼に、私は狼狽えてしまう。
「そ、そうとも限らないじゃないですか」
思わずどもったのは、一度はそれを疑った自分がいたからだ。
何度変えても来る無言電話、気持ちの悪いメール。
ただの嫌がらせでたまたま私の番号やメアドを知ったのなら変えれば終わると思っていた。
でも、終わらなかった。
それは、相手が知り合いだという可能性があるということを示すもの。
だけど、そんなわけがないと信じたかった。
関係のない友人や同僚、上司、先輩に後輩たちを、家族を、疑いたくないのだ。
それを口にしたら識嶋さんは笑うだろうか。
綺麗ごとだと、甘い考えだと否定するだろうか。