スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
「警戒心が無さすぎて話にならないな」
これもきっと、助けてくれた流れから考えるなら警戒心を持って用心しろって言いたいんだろうけど、攻撃的で解りづらい。
私にМっ気があればそれでもOKなんだろうけど、あいにくノーマルだ。
なので、許容できず……
「あの、もう少し言葉を選んだ方がいいと思いますよ」
口出ししてしまった。
というか、相手を不快な気持ちにさせない言葉を……という話なのに、よく考えたら私も識嶋さんを不快な気持ちにさせてるのではと気付く。
だけど意外にも嫌な顔をせず、識嶋さんは涼し気な顔で「遠回しに言っても伝わらないこともあるだろう」と唇を動かした。
いや、確かにそれもそうですけど。
ああもう、この人あれだ。
真面目過ぎて不器用な人なんだ。
「警戒心がないといえば同居の話もそうだ。相手が俺だからいいものの、他の男なら簡単に犯されるだろうな、お前は」
「なっ、そんなことありませんよ! 私は社長を信頼して頼ったんですから! そして私は”お前”ではなく、高梨美織という名前がありますので」
「とにかく、もう少し警戒心を持て。でないと足元すくわれるぞ」
名前の件は華麗にスルーされてしまったけれど、かけられた言葉は存外思いやりを感じるもので。
私は一瞬口をつぐんでから、ひとつ、頷いてみせた。
言い方はちょっと頭にくるけど、この不愛想で不器用な御曹司さまに迷惑をかけないようにしようと、心の中で誓いながら。