スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
あの日、帰宅した私たちは村瀬さんが用意してくれていた夕食を一緒にとった。
その最中、居候していることを内緒にしてほしいとお願いしてみたのだけど……
「なぜ俺がお前の都合に合わせなければならないんだ」
お気に召さなかったようで、識嶋さんは不機嫌そうに眉根を寄せて私を見た。
けれど、負けるわけにはいかないので、私は食い下がったのだ。
「私にも私の立場があるんです。変に誤解されるのは識嶋さんも困るでしょう?」
問いかけると、識嶋さんは手にしていたワイングラスをテーブルに置いて。
「確かに、それは困るな」
きっぱりと言い切った。
……なぜだろう。
自分で振ったんだけど、イラッときてしまった。
同意してもらってありがたいのに、微妙な気持ちになるのは識嶋さんの態度がふてぶてしいせいだ。
絶対そうに違いない。
断じて「俺は困らない」とか言って欲しかったわけではないと自分を否定つつ、私は頷いてみせた。
「それならぜひ内密にお願いします」
今度はいい返事をもらえるだろう。
半ば確信して頼んだのだけど、何故か識嶋さんは「……いや、待て」とテーブルに肩肘をついて私を見つめていた。
そして、わずかに口角をつり上げたかと思えば。
「いいだろう。とりあえずは黙っていてやる。ただし、役に立ってもらおう」
交換条件を口にしたのだった。
この後、内容を聞いても時が来たら言うとだけで教えてはもらえず今に至る。
気になるけど、しつこく聞けば厳しい言葉を浴びせられるだろうと追及はしないでいた。