スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
何かあったのか、識嶋さんは苛立たしげに目を細め、深く息を吐いて通話を切る。
その不機嫌な様子に声をかけていいのか悩みながら、ダイニングテーブルにドーナツが入った袋を置けば。
「さっそく出番だぞ」
いきなり意味のわからないことを言われて私は瞬きを繰り返した。
「もう忘れたのか。役に立ってもらうと言っただろう」
「ああ! え、何をすればいいんですか?」
ソファーに背を預けたままの識嶋さんに問うと、まあ座れと促されて。
私はジャケットを脱いでそれを手にしたまま彼の向かい側のソファーに座った。
すると識嶋さんは少しだけこちらに身を乗り出すようにして「まず」と口にし始める。
「断ることは許されない。断るならここから出て行ってもらう」
……え。
待ってよ。
「そ、それはこの前言われてないですよ!?」
出て行けなんてそんな話じゃなかったはずだ。
いや、迷惑だというなら出ていくけれど、一応約束を交わしたわけだし変えるのは反則でしょうと思っていると、識嶋さんは真剣な顔で再び唇を動かす。
「お前も困ってここにいるんだろう? それなら、俺が困っていることをお前が助けるのも当然だと思うが」
た、確かにそうだけど。