スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
「それをどう払い乗り越えるかはあなた次第」
しかも結果的に自分でどうにかしないといけないオチ!
せめて乗り越える為のヒントとか教えてもらえないかと、おばあさんに一歩歩み寄ろうとした瞬間。
──ドンッと、肩が人にぶつかってしまい、私は慌てて頭を下げた。
「すみませんっ!」
完全に私の不注意だ。
おばあさんの予言めいた言葉に心を持っていかれ過ぎたせいで周りが見えていなかった。
下げた視線の先にあるのは、クラシックなデザインの高価そうな茶色い革靴。
男性だと認識した刹那、頭上から聞こえてきた少し低めの優しい声。
「いや、こちらこそ」
その声に誘われるように顔を上げると、そこには。
「すまない」
普通に生活していたらなかなかお目にかかれないようなイケメンが私を見下ろしていた。
年齢は私と同じか少し上だろうか。
すっと通った鼻筋。
形の良い唇。
グレーのジャケットに紺色のスラックスをスマートに着こなす長身。
初めて……かもしれない。
男の人を綺麗だと思ったのは。
見惚れ、思わず見つめてしまって。
失礼だと慌てて目を逸らした直後、自分がおばあさんと話していた事を思い出し、急ぎ視線を彷徨わせた。
けれど、おばあさんの姿はどこにも見当たらず、今しがたぶつかったばかりの男性もすでに人並みに紛れて見えなくなっていた。
桜降る並木道で私は人知れず小さく肩を落とすと、仕方なく目的地へと足を動かす。
心内で、おばあさんの予言めいた不吉な言葉を反芻しながら。