スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
「帰りましたー」
居候先に帰った時、私はいつもただいまとは言わない。
何せほとんどタダで生活させてもらっているのだ。
家賃を支払わずして、ただいまだなんておこがましいと思ってのことだった。
私の部屋に向かうためににはリビングルームを通らなければならないのだけど、廊下を抜けてリビングルームに入った時だ。
「ああ、お前か」
リビングから繋がるダイニングに立っていた識嶋さんを見て、私は目を見張った。
お風呂から上がったばかりなんだろう。
彼は上半身裸だったのだ。
普段は隠れているたくましい胸板に、彼が男性であることを嫌でも意識してしまう。
しなやかな指がまだ少し濡れている髪をかきあげて。
その色気のある仕草に不覚にも心臓が高鳴せていたら。
「ジロジロ見るな。用があるなら簡潔に言え」
攻撃的かつ鬱陶し気に放った。
「ありません! でも少しは人の目や気持ちを意識した方がいいですよ!」
肩からかけていたレザー製のトートバッグを手に持ち直し、私は逃げるように自分の部屋に向かう。