スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
私からでは識嶋さんの後頭部しか見えないけれど、彼は私の借りている部屋に向かっていた。
ふらふらの私を見るに見かねて、ということだろうか。
その優しさはとてもありがたいけけれど、こんな朦朧とした状態でも働くのは乙女心。
「し、識嶋さん、重いですから……おろしてください。歩けます」
それと、風邪だったらうつしてしまうからという言葉は、先に発せられた識嶋さんの声で音にならることはなかった。
「まともに歩けてないだろ。黙っていろ」
怒気はないけれど、有無を言わせないような言い方に私は黙るしかなくなってしまう。
部屋に到着すると律儀に「入るぞ」とことわった識嶋さんは、私をベッドの上におろすと待っているように言って廊下に出て行った。
熱い息を繰り返し吐き出しながらぼんやりとベッドに座っていると、識嶋さんが手に体温計と氷枕を持って現れた。
「測っておけ。薬を探してくる」
そう言って、彼はまた廊下へと消えていく。
……意外と面倒見いいんだな、なんて、動きの悪い頭で考えながら体温計をワキに挟むと、氷枕に頭を乗せた。
熱い頭にほどよく冷たい感覚が今はとても心地がいい。
さっきから感じている体の節々の痛みは、私の体がウイルスと闘っている証拠だ。
頑張れ、私の体。
自分で自分を鼓舞した一分後、40度という体温を見て早々にへこたれた私。
識嶋さんの持ってきてくれた風邪薬を飲んだ私は、早く下がりますようにと祈りながら全身の倦怠感に引きずり込まれるように眠りについたのだった。