スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
「村瀬さんがいないからな。仕方ない」
「仕方なくでもとても助かりました。今度、私にもできることがあれば言ってくださいね」
お礼にもならないかもしれないけど、と付け加えると、識嶋さんは「仕事で返してくれればいい」とコーヒーを淹れながら言った。
識嶋さんらしい答えなんだけど、仕事は当たり前なのでやっぱり何か別のことでお礼ができたらなと考えた、その直後。
どこから入ってきたのか。
「ひゃっ!?」
カナブンがパンプスを履いている私の足の甲に乗ったのだ。
虫が大の苦手な私は驚き、咄嗟に隣にいた識嶋さんに助けを求める。
「とととととと! とって! 足!」
「は?」
しまった伝わらない!
というか、動いたのにどうして私の足についたままなのカナブン!
「虫です! 足です!」
焦りすぎてまたまた文章にならなかったけれど、それでも識嶋さんは理解してくれたようで私の足元に視線を落とすと「ああ、これか」と呟く。
その瞬間、カナブンは身の危険を察知したのかブーンという羽音を立ててどこかへ
飛び立っていった。