スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
Floor 10
「えっ? スーパーに入ったことないんですか?」
目を丸くし、思わず識嶋さんを凝視する。
土曜の夕刻前。
今日は村瀬さんがいないから外食に行ってくると話した識嶋さんに、じゃあお礼に今日は私が作りますと提案したのは20分ほど前のこと。
材料調達に出ると伝えたら、識嶋さんが愛車のポルシェを出してくれて。
訪れた近場のスーパーマーケットの地下駐車場に到着し、車から降りた時。
「そういえば、こういう店の中に入るのは初めてだな」
キーをロックしながら漏らされた言葉に私が驚くのは、至って普通の反応だと思う。
どうやら彼は本当に初めて入店したようで、物珍しそうに店内を眺めていた。
御曹司ともなるとちょっとスーパーに、なんて生活は送らないらしい。
それとも識嶋さんがハイレベル過ぎるだけなのか。
でも、おかゆを作ってくれたりドーナツを買ってくれたりと、御曹司のイメージではないこともしてくれた。
つまり、識嶋さんは識嶋さんということだ。
御曹司だからとか、先入観を持って変に線引きするのはやめよう。
心に決め、本日使用する食材を買い物カゴに入れていく。