スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-


「俺はもう夢なんて忘れたな」

「そうなんですか?」

「色々あった気はするが、今は会社のことだけを考えている。結婚も、父と会社の為にするだけだ」


今回の縁談は断るが、と付け加え、識嶋さんはハンドルをゆっくりと左にきった。

そうすれば、前方に見慣れたタワーマンションが姿を現して。


「それでいいんですか?」


自分の意志がない、想いがない結婚なんて。

そんな寂しい結婚、私ならしたくない。

私の問いかけに、識嶋さんは少しだけ間を置いて。


「そうすべきだ」


赤に変わった信号を見つめながら、静かに言った。

……この人は諦めてきたんだろう。

会社の為に、自分を犠牲にしてきた。

本当に、真っ直ぐすぎて不器用なんだ。


「頭デッカチはよくないですよ」


信号が青になって、識嶋さんは「誰が頭デッカチだ」と反論しながらアクセルを踏むとマンションの駐車場へと入っていった。


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