スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
「なりましょうよ、友達」
私の言葉に熟考しているのか視線を外し無言になってしまった識嶋さん。
あまりしつこくしてはいけないと、私はシンクで手を洗いながらこれが最後と思い伝える。
「会社ではさすがに無理でしょうけど、せめて、この家の中では」
ダメですか?
苦笑しつつ懇願すると、識嶋さんは小さく息を吐いて。
「……勝手にしろ」
まだ戸惑っているのか、視線を彷徨わせながらもパソコンへと向き直った。
少し強引だったかなと思うも、今はこれしかいいアイデアが思いつかないのでよしとし、私は引き続き煮込みハンバーグを調理する。
なかなかいい出来となった今夜のディナーを識嶋さんは「悪くないな」と遠回しに褒めてくれて。
上機嫌で部屋に戻った私はお風呂から上がると風に当たりにバルコニーへと出た。
少し強めの風に乗って、どこか遠くから車のクラクションが短く鳴り響く。
その音に誘われるように手すりへと寄れば、眼下に広がる夜景。
街を彩るように光る建物や車の明かりが美しく輝き、私の心もまた、最初にここに来た時とは比べ物にならないほど、明るいものになっていた。
識嶋さんに友達になろう、だなんて。
やっぱり人生、何が起こるかわからないものだ。