スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
歴史の重みを感じられるような部屋の雰囲気に、緊張で背筋がピンと伸びっぱなしの中、飲み物が運ばれてくる。
向かいの席に胡座をかいて座る社長が、熱いお茶に少しだけ口をつけてから「会社で困った事はないか?」と尋ねてきた。
「会社では特に……」
仕事もやり甲斐があるし、人間関係も問題ない。
そう思い、素直に口にした言葉だったのだけど。
「ということは、社外ではあるのか」
社長の声に、私はハッとした。
確かに私の言い方だとそう聞こえる。
特に意識してなかったけど……どうやら、ストーカーの存在は私の心を麻痺させていたらしい。
ちょっとした会話の中にも疲れを見せてしまうなんて。
「若いから色々あるんだろう。恋愛か?」
からかうような口振りに私は苦笑いを浮かべた。
「いえ、そんなロマンチックなものじゃないですよ」
恋愛の悩みならまだ楽かもしれない。
そう思いながら返すと、社長は今度は眉を寄せて険しい表情を作る。
「もしかして、借金か」
「違います!」
借金だなんて、そんなだらしない生き方してないし、する予定もない。
「じゃあ何だ? 何か協力できるかもしれんし、話してみないか?」
ニコニコと優しい笑みを浮かべて私を見つめる社長。
こんなこと、本当はあまり人に話してはいけないのかもしれない。
気持ちの良い話しじゃないし。
だけど、誰かに聞いて欲しい気持ちもあって。
「……実は……」
私はポツポツと、ストーカーのことを話した。
そして、逃れる為には引っ越しも視野に入れている、と。