スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
思い出しながら声にしていく識嶋さんは、自分で何を言っているのかわかっているんだろうか。
彼は助けに、来てくれたのだ。
「お前を嫌な目に合わせたくないと思ったんだよ」
私のことを。
部下だから?
居候しているから?
恋人役だから?
彼が、どんな気持ちで来てくれたのかが気になって。
嬉しさやありがたさよりもそれが勝っているなんて、識嶋さん同様、自分でも自分がよくわからない。
けれど、知りたい。
そう思う気持ちの向こうにある甘い予感に、私は心の中で否定する。
これはきっと危機から救ってもらったから興奮しているだけだ、と。
黙ったままでは気まずいので、私は識嶋さんに「ありがとうございます」と頭を下げる。
そうすれば識嶋さんは今日はこのまま帰るぞと声にした。
雲のない夜空に浮かぶ月が静かに見下ろす中、私はひとり戸惑う。
どうしてこんなに、心が浮きだっているのかと。