溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
プロローグ
ひらりと、頭上を何かが横切って、私は顔を上げた。
暗闇に沈んだ街路樹をかすめて、白い物が旋回するように地面に落ちる。
一瞬、鳥かと思ったそれは、よく見ると紙飛行機だった。
どこから? と思ってもう一度空を見る。
遠くに浮かぶ丸い月が、たった今出てきたばかりの五階建てビルをぼんやり照らしている。
その屋上から、また白い物が飛ばされた。
トンビのようにくるくる旋回しながら、十秒ほどもかけてゆっくり落下してくる。
夜の十時だ。こんな時間にオフィスビルの屋上で遊ぶ子どもがいるはずはない。
酔っ払いのサラリーマンでも入り込んだのかな?
足元の最初に落ちたほうの紙飛行機を見下ろす。つぶれたカエルみたいな、ひらべったい形状の飛行機だった。
もとはコピー用紙だったらしいそれに見覚えのある文字を見つけて、思わず拾い上げる。
「これ……」
とっさに屋上を見上げて、私はぎょっとした。月明かりに照らされ、黒い影がぴょこんと頭を出す。
誰かが、屋上の手すりを乗り越えようとしている。