溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
書類が入り乱れたとなりの席を一瞥し、私は瞬時に引き出しからクリアファイルを取り出す。予備をプリントしておいて良かったと心底思った。
「これ持って行ってください。急いで!」
「駅からタクシー使っていいっすかね」
走れ野村!
心の中で叫んで、私は受話器を取り上げた。
私がサポートしている営業マンの野村宙也は、今年で三年目になるけどまだまだ頼りない。
口調は今風っぽく軽いけど、実家が裕福らしくていつも上質なスーツを着ているし、見た目を含めて品は良い。でも、本当に見た目だけだ。
顔だけで世の中を渡ってきた感じがありありと……。
受話器を置いて、ため息をついた。まだ一週間がはじまったばかりの月曜なのに、どっと疲れが出た気がする。
「西尾先輩、大変ですねえ」
うしろの島から声をかけてきた芽衣ちゃんが、ドアを出て行く野村くんを見て苦笑いをする。
「チュウちゃん、見た目は文句ないんだけどなぁ」
私より三歳年下の二十五歳でチュウちゃんこと野村宙也と同期である市原芽衣子は、さらさらのショートボブを揺らしてネイルをチェックしはじめる。