溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「もうすっかり涼しいですね」
となりに立つと、瀬戸くんはちらりと私を見た。
「敬語」
「会社なので……」
「はは、すげーな。切り替え完璧」
そんなにうまく切り替えられてませんけど、と内心思いながら私も手すりに腕をあずける。
夜になって風が出てきたのか、見下ろすと地上の街路樹がざわざわと枝を揺らしていた。
「今日はもう上がりですか?」
「いや、実はもう一件、このあとに接待が入ってる。報告書だけ提出してすぐに出るつもりだったんだけど……」
夜景を反射した彼の目が、じっと私に注がれる。
「光希。今日、元カレに会ったって……本当か?」
心臓が飛び上がった。
「え、な、なんで」
「さっき、下で市原から聞いた」
芽衣ちゃん……。ため息がこぼれた。
吹き抜けた風が彼のジャケットをはためかせる。
明るい夜だった。上空に、丸くて大きな月が出ている。そういえば、中秋の名月ってこの時期の月のことを言うのじゃなかったっけ。
秋空のように澄んだ目で、瀬戸くんは私を見ている。その心配そうな表情に胸が痛んだ。