溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
携帯が滑り落ちてラグに落ちた。
「いやいやいや」と独り言をつぶやきながら、私はドライヤーを引き寄せる。
だって、避けられる意味がわからない。
熱風を髪に当てながら、瀬戸くんの顔を思い浮かべた。最後に見た彼は、このマンションの外廊下で――
整った顔を切なそうに歪めていた彼を思い出す。あっと思った。もしかして、章介さんとのことを誤解してる?
どうしよう。私が章介さんとふたりで話をさせてなんて言ったから?
でも、だからって、私の話を少しも聞かずに避けるなんてこと、瀬戸くんに限ってあるだろうか。
きっと忙しいだけだ。そう思い込もうとした。
ドライヤーのスイッチを切り、うなだれる。
「もう……会いたいのに、生吹さんのバカ……」
そのときだった。
がちゃがちゃと玄関のほうから音がする。目を向けると、キイっと音を立てて玄関の扉が開いた。
入ってきたのはスーツ姿の男性だ。
「生吹さん!」
すぐさま立ち上がり、私は玄関まで走って出迎えた。
一週間ぶりに向き合う彼の、整った顔立ちやすらりとした立ち姿に胸がいっぱいになる。
時刻は夜の十時過ぎだ。私は瀬戸くんを見上げた。