溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「おつかれさま。仕事先から直接来たの? 夕食は……」
「一度自宅に帰って食べてきたから」
彼の声を聞きながら、かすかに違和感を覚えた。瀬戸くんの表情が硬い。その目は笑っても怒ってもいない。ただ疲れたように私を見下ろしていて、心ここにあらずといった感じだ。
「どうかしたの?」
「いや」
そう言って瀬戸くんは目を逸らす。その仕草に少しムッとして、私は彼の視線の先に回り込んだ。
「どうして急にいなくなったりするんです」
私が怒っていると気づいたのか、彼は少し驚いたように眉を上げた。
「悪い、出張と研修が重なって、必要なものが自分の部屋に置きっぱなしだったから。しばらくは自宅から通ったほうが効率がいいと思ったんだ。ここに荷物を全部運び込むわけにもいかないし」
「だったら、そういうふうに言ってくれればいいのに……」
「なかなかゆっくり話す時間もなくて」
彼の疲れた顔を見て、私は目を伏せた。
「……ごめんなさい。忙しかったんですよね」
自分の都合ばかり押し付けて困らせるなんて、聞き分けのない子供みたいだ。
それでも、私は会えなくて寂しかった。
気持ちを指先で伝えるみたいに、彼のシャツをそっとつかむ。
なんとなく、これ以上近づいてはいけない気がした。