溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「あの男とやり直すことにした?」
思いがけない言葉に、愕然とする。封筒が落ちて一万円札が飛び出した。
何を言ってるの、どうしてそんなこと言うの。
いろんな感情がごちゃごちゃと頭を飛び交って、言葉が出てこない。
「違う……」
ただそれだけを口にすると、瀬戸くんは傷ついたように眉を歪めた。
「生吹さ――」
広い背中が、玄関のドアを出ていく。
一瞬風が吹き込んで、彼と私につながった糸を断ち切るように、玄関のドアが重い音を立てて閉まった。
私はその場に立ち尽くす。
「違う、のに……」
掠れた声が狭い廊下にぽつりと落ちた。
たった今彼は私に触れていたのに、ぬくもりはあっという間に溶け落ちて微塵も残っていない。
ずるずると崩れてフローリングに膝をつく。冷たくて硬い床の感触が、薄い部屋着を通して容赦なく素肌を打った。
視界が定まらない。
まるで部屋の中から光が一気に消え失せたようで、私は瀬戸くんのぬくもりを探して宙に手をさまよわせた。