溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
私はパネルの横に移動した。外出中ならここで待っていればいずれ会えるかもしれない。
一昨日の夜に私の部屋を出て行って以来、瀬戸くんからは電話もメッセージもなかった。会社ではちらりと姿を見かけた程度で、私からも連絡はしていない。
顔を見て、きちんと話がしたかった。
腕時計は午後二時をさしている。どれくらい待つだろうか。
三、四時間は覚悟しなきゃいけないかもしれない。夜になる可能性もあるし……。もっとヒールの低い靴を履いてくればよかった。それとも、来る前にメッセージくらい送るべきだった?
ひとりでいると、いろいろと考え込んでしまう。
空は相変わらずうろこ雲に覆われている。風がないのか雲が動く気配はない。
ふいに瑠璃さんの声がよみがえった。
――生吹は傷ついてるの。
私に慢心がなかったとはいえない。
自分の傷ついた過去をさらしたことで、章介さんとヨリを戻すはずがないとわざわざ口にしなくても、瀬戸くんならわかってくれると思った。
彼にとって、私の過去の男が、八年付き合った元カレが、どういう意味を持つかなんて、考えもしなかった。
――あの男とやり直すことにした?
会社の屋上で、私は彼の虚ろな瞳を目の当たりにしていたのに。瀬戸生吹に弱さがあることを、知っていたのに。
ドアが開く音がして、私は振り返った。ひょろりと背の高い男性が、門扉を開けて私を見る。