溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「大樹さん……」
「入って」
「え、でも」
「いつまでもそこにいられると、近所の人間に変な目で見られるから」
うなずいて、私は大樹くんのあとに続いた。
「お邪魔します……」
広い大理石の三和土に、天井からぶら下がるアンティーク調のシャンデリア。このあいだ訪れたときと同じ空気に、息が詰まる。
前回と同じ応接室に通され、私はすすめられるままソファに腰を下ろした。生けられた花や小物、室内の装飾はすべて赤や茶色の秋色に変わっている。
「お茶か何か、出したほうがいいかな」
「いえ、おかまいなく。生吹さんはどちらに出かけられたんですか?」
大樹くんは切れ長の目をきょとんと瞬いた。
「いるよ、部屋で何かしてる」
「え? でも瑠璃さんが」
「瑠璃の言うことなんか、真にうけちゃダメだよ」
おかしそうに笑いながら、私の正面の一人がけソファに腰を下ろす。
あらためて向き合うと身体がこわばった。彼の目元はやっぱり杏子さんにそっくりで、その目で見つめられると肺を締めつけられたように息ができなくなる。
敵か味方か。大樹くんの存在ははっきりしない。
瑠璃さんの印象がその服装のようにビビッドだとしたら、大樹くんはグレーとかモスグリーンとか、くすんだ色合いをまとっている。
明るい色を際立たせる反面、主張がなく埋もれてしまいがちな色。でも気づくといつもそこにある。そんな印象だ。