溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~

心臓がどきどき鳴っている。瀬戸くんがやりたい仕事に就けるのが一番だけど、部署が離れてしまうのは少しだけ寂しい。といっても、現状でもほとんど仕事で関わりなんてないのだけれど。

「営業職で鍛えられてきた提案能力は企画においても十分魅力的だから、時間はかかるだろうけど、前向きに考えてくれるってさ」

ということは、野村くんやほかの後輩たちが育てば、瀬戸くんは異動することになるのだろう。何年先になるかは後輩くんたち次第といったところだろうか。

「瀬戸くんて、本当に行動力がありますよね」

彼はふっと表情を崩した。月明かりの下で、いたずらっぽく笑う。

「俺はなんだってできるよ。光希のためなら」

そういうと、くるりと背を向け、両手を使って手すりに身を乗り上げた。

「ちょ、なにして」

ぎょっとしている私の前で、彼は右手を月に向かって伸ばす。それから軽やかな動作で屋上のコンクリートに降り立った。

ゆっくり振り返り、私の左手を取る。

「な、に……?」

まるで月のしずくみたいにきらりと光るのは、ダイヤモンドだった。月のまわりを星が周遊するように、プラチナの優しげな曲線が薬指に留まっている。

「順序がめちゃくちゃすぎて本当に悪いけど、どうしても言っておきたくて」

瀬戸くんの温かな熱が指先から伝わって、胸が詰まる。

< 199 / 205 >

この作品をシェア

pagetop