溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「一途さが素敵です! 私、応援しますから!」
がくがくと顎を揺らしていたかと思うと、彼女はそのままテーブルに突っ伏した。ぎょっとして手を伸ばそうとしたら、
「あーあ、メー子潰れたか」
野村くんが瀬戸くんに苦笑いを向ける。
「よっぽど嬉しかったんすね。瀬戸先輩に飲みに誘われて」
当の瀬戸くんは首をすくめるだけだ。
幸せそうな顔で寝入っている芽衣ちゃんを見て、なんだかくすぐったい気持ちになった。アルコール一杯であそこまで感情を爆発させられるなんて、やたらと経済的で、それでいてかなり純粋だと思う。
「すいません、俺ちょっとトイレ」
野村くんが席を立つと、さきほどまでの賑やかさが嘘みたいにテーブルは静まり返った。私は立ち上がって、ハンガーにかかっていた瀬戸くんのジャケットを勝手に取ると、むにゃむにゃ寝言を言う芽衣ちゃんのむき出しの肩にかけた。
「あ、おい」
「なんですか、さっきのアレ」
目を合わせず言うと、瀬戸くんが間髪入れずに答える。
「俺の、正直な気持ちだけど?」
「他人を使って言葉にするなんて、卑怯です」
「じゃあ、直接言えば信じるのか?」
振り返ると、座ったままの彼と目が合った。強い瞳に貫かれて、身動きが取れない。
この人は、本当にあの日、屋上から飛び降りようとしていた人なの?
あのとき死にそうだった顔には、今、驚くほど精気がみなぎっている。
「光希だから選んだんだ。あのとき、オフィス五階のあの場所に、ほかの誰かが来てたら、付き合ってくれなんて言わなかった」