溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「何を言ってるんですか。そんな下心丸出しにされて、家に上げるわけないでしょう」
「隠してないから下心じゃない。真心だ」
堂々と屁理屈を言われ、脱力しそうになる。
「少しは隠してください!」
「敬語、やめろって」
「瀬戸くんにそんなこと言われる筋合いは――」
腕を引き寄せられた。瀬戸生吹の顔が、真正面にくる。
「それ以上言ったら、口、塞ぐよ」
吐息のかかりそうな距離での脅迫。形のいい唇に否応なしに視線を奪われ、私は顔を逸らす。
「……わからない」
瀬戸くんが「ん?」と首を傾げる。
「どうしてそんなに、私に執着するの」
夜の十時を過ぎて、オフィス街は閑散としている。あの日のような雲ひとつない夜空の下で、瀬戸生吹はぽつりとつぶやいた。
「年甲斐もなく、運命ってやつを信じてみようと思って」
「え……?」
「あの日、あのとき。ほかの誰でもない、西尾光希があの場所に現れた」
街路樹がざわっと揺れる。記憶の中で、白い紙飛行機が頭上を旋回する。
「入社して以来ずっと見てきて、西尾と一緒なら渡り合えるのにって、ずっと思ってたから」
どういう意味――?
瀬戸生吹の表情がかげって、私は言葉をのみこんだ。はっきりした二重まぶたの目に、屋上で見た時と同じ、絶望の色が浮かんだ気がした。
これは、安易には踏み込めない、瀬戸生吹の裏の顔……?
「送るよ」
するりと手が伸びて、私の右手に絡む。流れ込んだ彼の体温に、私は何も言えなくなった。
歩道を歩き出しながら、瀬戸生吹は少しだけ悲しげに笑った。
「今日は、オオカミになるのはやめとくから」